外部審査員講評

第29回日洋展を審査して

外部審査員 現代美術評論家・女子美術大学教授 南嶌 宏

昨年に引き続き、外部審査員として井手宣通賞、國領經郎賞、損保ジャパン日本興亜美術財団賞を中心に審査に参加させていただいた、その講評を述べさせていただきます。

なによりも本年1月に東京都美術館を会場に開催された新たなコンクール「日洋会セレクション展」の効果、つまり通常の本展の出品において陥りやすい、自己模倣に対する内省を経て迎えた作品には、これまでとはどこか違う絵画実践における覚悟が現れ始めていたということを、まず冒頭に申し上げておきたいと思います。

その上で井手宣通賞、國領經郎賞、損保ジャパン日本興亜美術財団賞の受賞者を見てみるならば、まず本年度の井手宣通賞に輝いた黒政幸義氏の「土」は、昨年までの北海道の荒涼たる大地を水平的に画面構成し、ひとつの完成をみせていたその作風を思い切り変え、その大地を人間の目の高さから垂直に直視し、そのディテールを克明に描いたもので、一見、抽象表現主義の絵画とも思われるほどの迫力を持つ作品として驚かされました。そして、新しい角度からの大地へのアプローチに、作者の自己模倣に対する危機感と、モチーフに内在する無数の可能性への、並々ならぬ意欲が感じられ、この作家がまだまだ成長することを確信させるものでした。

國領經郎賞の武田直美氏の「冒険のはじまり」はこれまで以上に舞台劇の一場面のような寓話性を増し、巧みな数々の表現方法によって生み出されるマチエールと素材感が見事に溶け合った画面を創り出しました。何よりも画面を走る筆の速度に停滞がないこと、そのフラットな画面に不思議な陰影が生み出されていることなど、技術だけではない、その独特の美意識によって、象徴的な未来に向かう少年少女たちの出帆の姿を描き切っています。

損保ジャパン日本興亜美術財団賞に選ばれた横田律子氏の「岬の明日」は、海辺を舞台としながらも、どこかシュールな光景が横たわる不思議な作品ですが、大作でありながらその筆先によって描かれたものの集積が絵画となるまで、執拗にキャンバスの隅々まで格闘した作品であることがよくわかります。けっしていわゆる上手い絵ではありませんが、描こうとする世界があることが十分に伝わってきます。

また理事長特別賞の戸部善晴氏、委員賞の磯部美代子氏、小寺和子氏、門田俊彦氏など、それぞれに安定した力を発揮し、印象深い作品として記憶に残ることになりました。

最後に全体を通しての要望ですが、私は更なる冒険を求めたいと思います。これまでの積み上げた時間を壊すことになってもなお、自己模倣を排し、つねに新鮮な画面を創り出そうとする意識をさらに強く持ち、会員であろうとなかろうと、毎回挑戦するような思いでこの日洋展に挑戦してほしいと思うのです。その態度こそ、創立の宣言文にある「未完成であっても、はつらつとした骨太い具象絵画」を生み出し得る、根源的な力となるものであることを信じるからです。